土地、食、人が交わる体験が日本酒の価値を更新
県内初・隈研吾設計の宿「fuku」をオープン。伝統文化に新たな息吹を
佐賀の銘酒「鍋島」で知られる富久千代酒造。飯盛日奈子専務にとって、昨年は日本酒はもっと人を感動させられる、人に寄り添い、食をもっと盛り上げてくれる存在になっていく可能性を実感した年だった。
その気づきの中心にあったのが、印象を大きく変えたワインのペアリング体験だ。もともと赤ワインには苦手意識があったが、主張しすぎず、料理に寄り添う酒の味と在り方を体験し、その固定観念は覆された。この体験をきっかけに、日本酒の可能性を再考した。新たな視点との出会いは、単なる出来事ではなく物事の捉え方そのものを変化させる。「日本酒にも、苦手意識を持つ人の価値観を変える力がある。そうした体験を提供できる酒をつくりたい」と話す。
酒蔵オーベルジュでは「鍋島」の蔵元が醸す酒と料理が楽しめる
一方で、日本酒を取り巻く現状には危機感も抱く。国内のアルコール消費に占める日本酒の割合はわずか7%。その半数以上がパック酒だ。日本酒ブームと言われながらも、市場全体は実際には縮小しているのが現状だ。本来、お酒は会話や食事を豊かにするもの。新たな発見を一時的な感動にするのではなく、更に共有し合い、学び、楽しみ方の幅を広げ、日本酒を文化のひとつとして伝えていきたいと考える。
その思いを形にする取り組みのひとつが、昨年オープンした宿「fuku」だ。2021年春に開業した酒蔵オーベルジュ「御宿 富久千代」と合わせて、肥前浜宿にゆっくりと滞在し、料理と酒、空間、時間を通して鍋島の世界観を体験できる場所として整備した。日本を代表する建築家・隈研吾らが佐賀県内で初めて設計を手掛けた宿としても注目を集めている。
土地、食、人が交わる体験が、日本酒の価値を更新していく。若い世代の発信が地域の魅力を照らし、伝統文化に新たな息吹をもたらす。富久千代酒造の若き蔵人の挑戦は、地域文化の発展へとつながっている。
富久千代酒造有限会社
鹿島市浜町1244-1
FAX:0954-62ー6638